交通外傷・気道熱傷による喉頭頚部気管狭窄

弘前市医師会報 第395号(2021年1・2月号)掲載を一部変更

 

はじめに

 

前回記載した気管カニューレ抜去困難症は広義の外傷性喉頭頚部気管狭窄であるが、狭義の外傷性喉頭頚部気管狭窄として交通外傷、産業外傷、スポーツ外傷、気道熱傷などがある。

喉頭頚部気管は、前上方は下顎骨、後方は頚椎、下方は鎖骨等で防御されており、比較的外傷を受けることの少ない器官であるが、一旦受傷して狭窄をきたすと、その治療は喉頭疾患の中でも最も厄介で難しい治療のひとつである。

今回、狭義の外傷性喉頭頚部気管狭窄の中から、交通外傷と気道熱傷について記載した。

 

 交通外傷による喉頭頚部気管狭窄

 

交通外傷による喉頭頚部気管狭窄について、私が最初に担当した症例は18歳男性で、1972年7月、バイク運転中転倒して側溝に転落し、前頚部に受傷して呼吸困難、発声障害、嚥下障害を認め、頚椎捻挫、頚椎損傷、咽喉頭部外傷の診断にて外科単科病院、町立病院外科にて入院治療を受け、受傷14日目から3回に亘って弘前大学病院耳鼻咽喉科外来に紹介され、その都度、経管栄養、気管切開、胃瘻造設等を示唆した。

同年11月に青森市民病院耳鼻咽喉科に転院して喉頭截開術を施行するも、嚥下不能、発声不能が持続するため、同年12月に弘前大学病院耳鼻咽喉科に転院となった。

 入院時局所所見は、喉頭内腔の著明な狭窄、舌骨と甲状軟骨との離断による喉頭脱臼と下降、食道狭窄等が認められ、気管切開口から施行した喉頭造影では下咽頭と仮声帯との変形が著明であったが両側声帯の変形は軽微であった。

19731月に、粟田口省吾教授が術者となって、手術用顕微鏡下喉頭直達鏡検査と、喉頭、下咽頭、輪状軟骨整復手術を施行し、その後も数回に亘って喉頭直達鏡下に喉頭および食道入口部に操作を加えて経口摂取と発声が可能となったが、誤嚥は持続し、同年9月に再手術を施行して10月に普通食摂食可能となり、11月(弘前大学病院入院後338日目)に退院となった。

 次の症例は58歳男性で、1972年11月に自転車に乗って走行中に対向してきた小型トラックから垂れ下がったビニールロープが頚部に巻きつき引きずられて受傷し、口腔・下咽頭・喉頭出血、呼吸困難、発声不能、嚥下不能となり、大館市立病院に救急搬送され入院となった。

 入院時は、口腔出血、上頚部擦過傷、頚部、顔面腫脹、下咽頭喉頭出血、中等度の呼吸困難を認め、発声は不能であったが、意識は明瞭で、入院後、気管切開に引き続き、気管切開口からの挿管全身麻酔下に喉頭下咽頭手術を施行し、頚部挫傷、下咽頭破裂、輪状軟骨骨折・転位、食道狭窄等が認められたので、下咽頭粘膜を縫合、胃瘻を増設し、24日後に、輪状軟骨整復、喉頭截開術等を施行して嚥下機能改善し、軽度の嗄声を認めるのみとなり、1973年1月(第87病日)に退院した。

次の症例は21歳男性、1982年4月に乗用車を運転中、ブロック塀に激突してハンドルで前頚部を強打し、右下肢、上下顎にも受傷して意識消失し、直ちに十和田市立病院外科に搬送されて緊急気管切開を受け、引き続き、同院整形外科、口腔外科、耳鼻咽喉科にて治療を受け、同年6月に弘前大学大病院耳鼻咽喉科に紹介、入院となった。

 図1aは入院時頚部側面X線写真で、喉頭脱臼・下降と閉塞が認められる。

同年7月に初回喉頭再建手術を施行した。甲状軟骨を正中縦切開し(図1b)、シリコンゴムから作成したコアモールドを喉頭内腔に挿入固定(図1c)して創部を縫合、8月にコアモールドを抜去して喉頭前壁を縫合閉鎖し、同年10月に2回目の再建手術を施行した。図1dは術直前の前頚部所見、図1eは狭窄部位を示す。図1fは狭窄部を切り離して開大し、シリコンゴム製Tチューブを挿入した所見である。

 

 同年11月に3度目の再建手術を施行した。図1gは手術時の局所所見で、狭窄部位は開大されており、喉頭前壁を閉鎖縫合(図1h)した。1983年3月に気管口を閉鎖し、鼻呼吸、発声も可能となり、退院した。図1iは退院時の前頚部所見である。

次の症例は66歳男性で、1983年7月、バイク運転中に小型ワゴン車と衝突して頚部を打撲し、大館市立病院にて気管切開を受けた。その後、誤嚥のため気管カニューレを抜去できず、同年11月に弘前大学病院耳鼻咽喉科に転院、初回再建手術を施行した。

1984年1月に2回目、同年2月に3回目の再建手術を施行し、舌骨と甲状軟骨とを銀線で縫合して喉頭を挙上し、Tチューブを2本組み合わせて挿入して誤嚥を防止しながら発声が出来るように工夫し、1984年3月に気管口を閉鎖、症状改善し、退院となった。

 

 

気道熱傷による喉頭気管狭窄

 

私が1972年に経験した気道熱傷は、14歳女性の火傷による喉頭狭窄例で、口唇に少し火傷瘢痕のある患者の顔を思い浮かべるが、詳細な記録は手元に無く、NETで弘前大学病院病歴室を検索した結果、201462日に電子カルテに移行し、電子記録は永久保存、紙診療記録は20年(但し、電子カルテ移行前の記録は10年)となっており、詳細は不明である。

次の症例は、朴沢二郎教授時代の1987年に経験した花火爆発による火傷例で、受傷した2例が青森労災病院に緊急搬送され、重症の1例は死亡し、1例は緊急の輪状甲状膜切開を受けて救命され、同院から弘前大学病院耳鼻咽喉科に紹介、入院となった。

症例は15歳男性、転院時の気管内径は34㎜で、青森労災病院入院時よりさらに狭窄が進行していたため、入院直後の1987年11月に、麻酔科医師と共同で気管内腔拡張術を施行した。

4%リドカイン噴霧による粘膜表面麻酔後、気管切開口から気管支ファイバースコープを挿入して観察しながら全身麻酔用PORTEX・気管内チューブを内径3㎜のものから順次太いサイズに変えて挿入して気管内腔を拡張し、2日後に2回目の拡張術を施行し、内径6.5(外径8.5mm)まで挿入に成功し、16日後に既存の輪状甲状膜切開口より約3cm下方に気管を切開し、引き続き喉頭截開術を施行した。

喉頭内の右声帯部瘢痕を右披裂軟骨と共に切除し、粘膜欠損部には右仮声帯粘膜を有茎移植して喉頭、気管を拡張し、ステントとして、シリコンゴム製Tチューブ(外径10㎜、高研製)を喉頭截開部から挿入し、気管切開口には気管カニューレを挿入した。

 同年12月(1ヵ月後)にTチューブを気管切開口に入れ替えて喉頭截開部を閉鎖し、発声は可能になったが、Tチューブに長く栓をしていると呼吸困難が生じるため、1988年1月に喉頭マイクロサージャリーを施行し、喉頭マイクロ用鉗子にて左仮声帯、声帯の著明なポリープ様腫脹を切除した。術創粘膜には炭酸ガスレーザー・メスの肉芽発生予防効果を期待してレーザー照射(20ワット連続)した。

手術後、㈱高研に特注して、前回よりサイズが小さく、上下を長くしたTチューブに交換して喉頭気管を拡張し、発声および呼吸機能を改善し、1988年2月(入院85日後)に一時退院、高校に通学を開始し、同年3月に再入院して全身麻酔下に外径10㎜のTチューブ(特注の長いもの)と交換して退院、青森労災病院外来に転院となり、患者と家族に次のように説明した。

喉頭気管狭窄の治療はきわめて難しく、長期にわたる忍耐強い治療を必要とする。気管口を閉鎖して、鼻呼吸および発声が可能となるように治療を進めているが、現在の状況のままTチューブを抜去すると、再狭窄は避けられず、また、喉頭気管の狭窄を完全に治癒させることは難しい。そのため、会話や肉体労働はかなりの制限を受けると予測され、就労できる職種は限定される。今後、さらに末梢の気管、気管支にまで瘢痕性狭窄が進行する危険も残っている。その後の経過記録は残っていない。

次の症例は、私が青森県立中央病院勤務時に手術した21歳男性で、1990年5月、内装工事中ゴムのりにガスバーナーの火が引火して火災となりその熱風を吸入して呼吸困難となり、救急指定病院に搬送されて緊急気管切開を受け、受傷21日後に気管カニューレを抜去するも、咳嗽、喘鳴、呼吸困難が続き、次第に増悪するため、1990年10月に再度気管切開を受けた後、青森県立中央病院耳鼻咽喉科に紹介され、入院となった。

図2aは、初診時の喉頭ファイバースコープ所見をシェーマで示したもので、声門下の全周にわたる瘢痕性狭窄が認められた。図2bは、喉頭X線造影側面写真で、transglotticな(声門上~声門下)喉頭狭窄が認められた。

 手術は、気管内挿管全身麻酔下に行われ、最初に喉頭截開術を行い、喉頭内腔を観察した。喉頭粘膜は極めて出血し易く、声帯と仮声帯との癒合が認められた。また、後連合部から声門下腔全周にわたる高度の瘢痕性狭窄が認められ、輪状軟骨にも縦切開を加えて瘢痕を切除し、喉頭腔を開大した。

 粘膜欠損部には口腔粘膜を植皮し、粘膜と頚部皮膚とを縫合し、内腔にはシリコンゴム製Tチューブを挿入した。喉頭前壁は、2次的に移植した肋軟骨と前頚部皮膚とのdoor flapにより形成した。

 図2cは喉頭截開手術所見、図2dは、前頚部皮下に肋軟骨を移植した所見、図2eは、肋軟骨と前頚部皮膚の複合弁で喉頭前壁を形成している手術所見、図2fは2ヶ月後のカフスボタン型カニューレ(高研製)を装着した前頚部所見である。

図2gは、入院時のMRI所見、図2hは気管孔閉鎖後のMRI所見、図3iは同じく気管口閉鎖後の前頚部所見で、入院5ヵ月目に気管口を閉鎖し、退院となった。

 

以前は、輪状軟骨に切開を加えることに対して慎重な意見が多かったが、当時、感染に留意すれば禁忌ではないという意見もあり、本例のように、瘢痕性の著明な声門下狭窄を認めた例には試みる価値があると報告した。

 

考 察

 

 1997年に田山4)は、外力による喉頭外傷について記載し、その受傷機転により、咽頭、喉頭の内腔からの損傷である内損傷と、外頚部からの損傷である外損傷とに分けられる。また、外損傷は皮膚損傷のない閉鎖性損傷と開放性損傷とに分けられるとし、治癒機転からは新鮮外傷と陳旧性瘢痕性外傷とに分類できるが、陳旧性瘢痕性外傷は喉頭気管狭窄といった病態をとることが多く、これは初期治療が不十分のときに起こりやすいとしている。

2012年に福田、加藤ら6)は、山間部で林業作業中に木材を運搬するナイロン製ロープが切れ、頚部に絡まり受傷した26歳男性を防災ヘリでつり上げて病院に搬送し、輪状軟骨骨折、頚部皮下気腫、縦隔気腫、両側喉頭麻痺と診断して気管内挿管・人工呼吸、第10病日に気管切開、翌日人工呼吸器から離脱、嚥下障害も次第に改善し第39病日に退院となった例を報告している。

2018年に中込、金子5は、喉頭気管損傷の原因は運転中の事故が最多で、ほかにスポーツ外傷、虐待や傷害、絞頚、転倒時の鉄棒やロープへの打撲、医原性が報告されているとし、乗用車運転中に脳内出血を発症して車線を逆走し、停車中の車に衝突して頚部を打撲して輪状軟骨骨折を生じ、急性気道閉塞、心停止を来した86歳男性の救命例を報告している。

気道熱傷による喉頭気管狭窄は、通常、救急患者として他科で治療を受け、慢性瘢痕性狭窄となった状態で耳鼻咽喉科医に紹介されることが多い。

気道熱傷について、1989年に島津ら6)は、気道熱傷は重症熱傷の予後を左右する主要な要因の一つで、気道熱傷の合併により死亡率は最大20%増加するとし、熱傷治療における重要な問題の一つとして認識されるようになったのは1970年代以降と記載し、2015年発行の熱傷診療ガイドライン  改訂第 27)では、気道熱傷の診断法と重症度判定は(1)口腔・咽頭内スス付着,嗄声,ラ音聴取などの臨床所見による診断が最も基本となる。(2)気管支ファイバースコープによる診断が推奨される。(3)経時的に胸部単純X線撮影を行い診断することは呼吸障害の発見に有用であり推奨される。 (4)現在のところ,重症度診断の指標として単独で確定的なものはない、と記載している。

 

おわりに

 

 2007年に森8は、喉頭狭窄症の治療について、外切開によるアプローチの立場から次のように述べている。

喉頭狭窄症を積極的に治療している施設は少ないが、喉頭狭窄症の中では声門下狭窄が最多で、治療の原則は、瘢痕組織の除去、できればraw surfaceを粘膜や皮膚でカバー、必要なら喉頭軟骨の枠組みを拡大、適宜ステントを留置の4項目である。

治療方法は、耳鼻咽喉科医では、レーザーを用いた内視鏡下治療と喉頭截開下治療に大別され、他に、胸部外科医の行う、狭窄部を輪状に切除して気道を端々吻合する方法もある、としている

気管口全閉鎖の時期については最大の論点であるが、特に小児声門下狭窄の場合、いつ全閉鎖してよいか?についてはデータがない。外科的侵襲を加えた声門下が、正常に成長するか否かは明らかではないとし、声門下狭窄の治療にはこれといった決定打はなく、その治療には年余を要することが多い。また、小児に多く、治療法にはおおよその適応があるので、それぞれの適応を十分考慮して、年余にわたる長期計画を立てた上で治療にあたることが大切で、この覚悟が無ければ、手を出すべき病態ではないとしている。

私が、前回記載の気管カニューレ抜去困難症、今回記載した狭義の喉頭頚部気管狭窄等の再建を行っていたの1972年頃から1991年までで、当時、青森県内の高速道路・新幹線等の交通網は整備途上で、弘前大学病院が最後の砦という意識は現在よりもさらに強かった時代であり、粟田口教授が熱心に取り組んでいた喉頭狭窄症の治療を引き継ぐのは当然と考えて治療していた。

 

参考文献

 

1.   粟田口省吾、齋藤久樹、他:喉頭外傷の2例.気食会報.26 33-39 1975

2.   齋藤久樹、朴沢二郎、他:外傷性喉頭頚部気管狭窄症例の手術経験.日気食会報34(3) 260-269 1983

3.   齋藤久樹、朴沢二郎、他:再建手術を行った喉頭外傷症例の喉頭機能の検討.耳鼻臨床 79(4) 597-602 1986

4.   田山二朗:外力による喉頭外傷.耳喉頭頚69(6) 104-109 1997

5.   中込圭一郎、金子直之:頚部打撲により輪状軟骨単独骨折を生じ急性気道閉塞により心停止に至った1救命例.Japanese Journal of Acute Care Surgery 8 211-215 2018

6.   島津岳士、杉本 侃:気道熱傷の診断と治療における問題点.外科診療31(9)1280-1286 1989

7.   一般社団法人 日本熱傷学会 熱傷診療ガイドライン 改訂第2版.印刷㈱春恒社 2015

8.   森 一功:喉頭狭窄症の治療:JOHNS 23(11)1693-1696 2007