耳鼻咽喉科の救急疾患(急性喉頭蓋炎・咽頭異物・急性中耳炎)

 弘前市医師会報 第345号 (2012年9・10月号)第17回臨床を語る会 耳鼻咽喉科の救急疾患を改編

 

  はじめに

 

耳鼻咽喉科救急疾患の中から、急性喉頭蓋炎、咽頭異物および急性化膿性中耳炎について、筆者が経験した症例を中心に解説する。

 

急性喉頭蓋炎

 

急性喉頭蓋炎は、近年の耳鼻咽喉科救急で、最も注意しなければならない疾患の一つで、咽頭痛、嚥下痛で発症し、嚥下障害、嗄声、流涎、含み声などが認められ、急速に呼吸困難へと進展する。

気道確保などの処置が間に合わず、窒息死することもあり、医事紛争の原因となる。

 

最初に、急性喉頭蓋炎の小児例を呈示する。 

症例:2歳 男児 初診:200510月29日 主訴:発熱、不機嫌

現病歴:発熱、不機嫌を主訴に、前日、健生病院小児科を受診し、入院となった。

入院後、流涎、下顎の突き出しも見られ、のどが痛そうで経口摂取不能であった。

急性喉頭蓋炎を疑われて、抗菌薬(CTRX)を点滴静注。血液培養でグラム陰性桿菌を検出した。

翌日に解熱し、朝食を摂取するも、喉頭精査のため、入院のまま、当院に紹介となった。喉頭ファイバースコピーでは発赤腫脹した喉頭蓋と披裂部粘膜が認められた(写真1)。本例は、診断を確定後、健生病院小児科にての入院治療を継続した。

 

次に、急性喉頭蓋炎の成人例を呈示する。

症例:47歳 男性 初診:20108月2日 主訴:咽頭痛

現病歴:3日前に風邪をひき、咽頭痛と咳嗽を訴えて、内科医院を受診した。

胸部X線写真には異常なく、抗菌薬(LVFX)の経口投与を受けたが、服薬後も嚥下痛が強く食事が出来ないため当院を受診した。

喉頭電子内視鏡検査では、喉頭蓋粘膜の発赤、腫脹、膿苔と下咽頭への唾液貯留が著明であった(写真2)。本例は、国立病院機構弘前病院耳鼻咽喉科に紹介し、即時入院となった。

 

続いて、当時、筆者の施設では重症例を経験していなかったので、平成23年度日本耳鼻咽喉科学会医事問題委員会ワークショップ記事より、気道確保が困難で、救命できなかった急性喉頭蓋炎の1例を抜粋して呈示する。

症例:34歳 男性 咽頭痛があり、他院内科に扁桃炎として入院加療していたが改善せず、呼吸困難を訴えるようになったため、土曜夕方に某県立医大病院に紹介となった。

救命センターより依頼され、耳鼻咽喉科当直医が診察中に呼吸停止となった。救命センター医師が、口腔より気管内挿管を試みるも困難であったため、耳鼻咽喉科医が輪状甲状膜切開を試みるも難渋し、トラヘルパーにて、第一第二気管輪間の穿刺を試みた。

操作中、出血を認めて気道確保が出来ず、ピンク針5本にて気管への刺入を確認したのち、救命センター担当医が経口挿管した。換気を確認し、心肺機能は改善するも意識は戻らず、約半年後に死亡した。その後に訴訟となり、裁判所から和解が勧告され、和解金で結審したと記載されている。

急性喉頭蓋炎の特徴は、急激に発症する高度の咽頭痛、嚥下痛、発熱で、進行すると呼吸困難になる。重症例では、患者は、ふくみ声、あえぎ呼吸に顎を突き出すような体位をとり、強い嚥下痛のために流涎がみられる。急速に呼吸苦が進行するため、気道確保が間に合わず、窒息死することもある

診断は、間接喉頭検査や喉頭ファイバーでの直接観察が重要であるが、舌の牽引や間接喉頭鏡の挿入だけでも呼吸困難を増強させることがあるので、細心の注意が必要である。

原因は、細菌感染が主体で、本邦では、溶血性連鎖球菌や嫌気性菌を主体とする常在菌が多く、欧米では、インフルエンザ菌B型が多い。

他に、魚骨などの異物による損傷、放射線照射、喉頭蓋のう胞の感染などが挙げられ、焼き肉など、熱い食物を飲み込んだ熱傷によることもあり、問診が重要である。

治療は抗菌薬、ステロイドの投与で、気道確保の必要性を判断し、仰臥位をとれるうちに気道を確保する。患者には、耳鼻咽喉科医、麻酔科医、救命救急医のチームで対処する。

次に、扁桃周囲膿瘍と急性喉頭蓋炎とを併発した症例を呈示する扁桃周囲膿瘍は、急性扁桃炎の炎症が扁桃の外側に波及し、膿瘍に進行した状態で、耳鼻咽喉科診療で比較的多く遭遇する疾患で、発熱、激しい咽頭痛・嚥下痛、摂食障害、開口障害などを訴える。

片側(時に両側)口蓋扁桃の著明な発赤・腫脹、扁桃外側の膨隆と圧痛、口蓋垂の偏位などが認められ、膿瘍を穿刺・切開排膿すると、症状は劇的に改善する。 

症例:38歳 女性 初診:20093月23日 主訴:左側咽頭痛

現病歴:10日前より咽頭炎の診断にて近医にて抗菌薬CAM)の経口投与を受けていた。

321日より左扁桃腫脹著明となり、22日に他医院を受診。抗菌薬PAPM)の点滴静注を施行するも改善少なく、精査のため当院に紹介となった。

左扁桃周囲膿瘍(写真3)を認めるも、喉頭ファイバーにて喉頭蓋谷粘膜の浮腫状腫脹(写真4)を認めたため、国立病院機構弘前病院耳鼻咽喉科に紹介し、同院外来で膿瘍切開、排膿の後、入院となった。本例のように、稀に、扁桃周囲膿瘍に急性喉頭蓋炎を合併する例があり、扁桃周囲膿瘍症例においても喉頭の精査が必要である。

 

 咽頭異物

 

 実地臨床医の取り扱う咽頭異物の大半は、魚骨などの小型異物である。

魚骨誤嚥を訴えて受診した患者さんの場合、口蓋扁桃など、直視できる部位に介在した咽頭異物の診断、摘出は容易であるが、口蓋弓鈎を使用したり、手術用顕微鏡や鼻腔用硬性内視鏡を使用したりしてようやく発見できた例もある。

 一方、舌扁桃、梨状陥凹、上咽頭など、直視できない部位に介在した咽頭異物は、間接喉頭鏡、鼻咽喉ファイバースコープ、下咽頭ファイバースコープ、喉頭直達鏡、X線検査などを使用して異物の発見に努める。

各種検査を駆使して探索し、異物を発見できなかった場合にも、異物がないと断定できないので、痛みが軽快しない場合には再度受診するように念を押している。

 筆者は、19922月から、直視できない部位に介在した咽頭異物の大半を、処置用ファイバースコープ(処置用Fと略称)を用いて摘出している。

当時、専門書の多くには、咽頭異物の摘出法として、間接喉頭鏡と喉頭鉗子、または、直達鏡を用いて行うと記載され、処置用Fによる摘出の記載はわずかであった。

魚骨などの小型異物は、義歯などの大型咽頭異物や食道異物の摘出に比して操作が容易で、疾患そのものも軽症のためと推測された。

そのため、実際の摘出にあたっては、直達鏡による異物摘出手技や、気管支ファイバースコピーの生検手技を応用し、筆者自身で工夫・改良を加えながら摘出した。

 摘出経路の大半は経鼻であり、経鼻法は、咽頭反射を誘発しにくく、スコープが鼻腔で固定されるため操作も容易で、麻酔も鼻腔の表面麻酔のみで実施でき、小さな魚骨の摘出には第一選択と考えている。

 しかし、長い魚骨は後鼻孔付近で脱落することがあり、鼻腔の狭い例は処置用Fの挿入が難しいため、経口的な摘出も施行していた。

経口法は、長い魚骨、木の枝、PTP異物など、やや大きい異物の摘出に有用であるが、咽頭反射を誘発しやすく、スコープも固定されないため、経鼻法よりも難しく、長時間を要する。以下に、処置用Fを用いて摘出した咽頭異物症例を呈示する。

 症例:46歳、男性 介在は40時間 喉頭蓋潰瘍を併発したエビの触角異物(写真5)で、鰐口鉗子を用いて経鼻的に摘出した。

 症例:75歳、男性 異物介在は3時間、薬の包装PTPを誤嚥して当院に紹介されて受診。鰐口鉗子を用いて経口的に摘出した(写真6)

 

 1992年4月~2012年6月までに経験した全咽頭異物331例の摘出手技別分類は、処置用Fを用いて171例、直視下に150例、間接喉頭鉗子を用いて6例、直達鏡下に4例摘出した。

咽頭異物331例中322例が魚骨で、その種類は、ホッケ34、ニシン30、ウナギ30、サンマ28、アジ26、サケ24、カレイ24、サバ17、タラ16、アカウオ12、カンカイ10、イワシ10、タイ9、キンキン5、エビ5、その他22、不明20であった。

なお、処置用ファイバースコープを用いた経口的摘出法は、咽頭反射を避けるため、事前に局所表面麻酔や硫酸アトロピンの注射を併用し、摘出に要する時間も経鼻的摘出法よりも長時間を必要とする。

たまたま、経鼻的に摘出を試みた魚骨異物を鉗子で把持して後鼻孔まで引き上げたところでつかえてしまい、鉗子を少し戻して開口させ、ハイマン鉗子を使って口から摘出した。本手技を経鼻・経口併用法と命名し、その後は、ほとんどの異物を経鼻法か経鼻・経口併用法で摘出した。

 

小児急性中耳炎

 

急性中耳炎は、小児期に多く、夜間、急に発症するので、耳鼻咽喉科領域で最も多い救急疾患である。従来、急性中耳炎は、経口抗菌薬の投与によりすみやかに軽快・治癒する経過良好な疾患と考えられていた

1990年代後半からその病態に急激な変化がみられ、反復例、難治例が増加し、その第一原因として、起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌などの薬剤耐性株の増加が挙げられている。筆者の施設で、2009年から2010年までの2年間に経験した小児急性中耳炎患者の耐性肺炎球菌検出率は、PSSP25例、PISP96例、PRSP20例で、耐性率は82.3%であった。

耐性肺炎球菌の年齢別検出率は、0歳児が85%、1歳児が91%2歳児が92%と高率であったが、3歳児になると57%に低下し、45歳児は42%とさらに低下していた。

 また、最近2年間に経験した小児急性中耳炎患者109例の鼻咽腔から分離した耐性インフルエンザ菌検出率は、感性菌が31例、BLNAR 67例、BLPAR11例で耐性率は71.6%であった。

同じく、耐性インフルエンザ菌の年齢別検出率は、0歳児が75%1歳児が73%2歳児が70%3歳児が77%と高率であったが、45歳児になると55%と低下していた。

小児急性中耳炎診療ガイドライン2009年版の重症度スコアリングでは、9点以下が軽症、10点から15点が中等症、16点以上が重症に分類される。

 筆者が使用していたスコアシートでは、乳幼児急性中耳炎の大半が、中等症から重症に分類され、容易に遷延化・反復化するため、早期に鼓膜切開による排膿を行うことが望ましいとされた。

急性中耳炎における鼓膜切開術の目的は、

1.中耳に貯留した膿汁を排泄する。

2.耳痛、発熱などの臨床症状を即効的に改善する。

3.中耳腔に感染している起炎菌の減少を図り、抗菌薬の効果を高める。

4.聴力の早期改善を図る。

などである。

一方、鼓膜切開孔は約1週間で閉鎖するため、十分な換気ドレナージがなされず、特に、乳幼児では鼓室内に滲出液が遺残し、滲出性中耳炎に移行したり、難治性、反復性中耳炎に移行したりする例が多い。

そのため、難治性中耳炎の最も効果的な治療法として鼓膜チューブ留置術が推奨されていた。

写真7は、20048月に筆者が初めて難治性急性中耳炎にチューブ留置を施行した症例の、初診時鼓膜所見(上)とチューブ留置3ヶ月後の鼓膜所見を示したもので、初診時の鼓膜切開排膿後も症状の改善が少なく、入院治療をすすめるも同意が得られなかったため、2週後に高研製長期留置用B型チューブを挿入した(下)

 

従来、無床診療所における乳幼児難治性中耳炎の治療は困難で、その多くは入院設備のある医療機関に依頼していたが、チューブ留置術の導入により、入院を依頼する患者は著明に減少した。

難治性中耳炎における鼓膜チューブ留置術の対象は、大半が02歳児で、外耳道は狭く、急性炎症の最盛期に実施するため、出血や膿汁排出で視野を遮られることが多く、チューブを脱落させる危険があったので、5例目からは、高研製短期留置用糸付きチューブD型を導入し、チューブ脱落を気にせずに実施できるようになった。

写真8は、2008年5月に経験した11ヶ月男児の両側急性乳突洞炎併発例のチューブ挿入直前と4カ月後の左鼓膜所見で、チューブは高研製短期留置用糸付きD型を使用した。

 起炎菌は耐性インフルエンザ菌、MIC128µg/mlの高度耐性BLPARであった。

本例は、発熱が続き、国立病院機構弘前病院耳鼻咽喉科を経て、弘前大学病院耳鼻咽喉科に入院の上、PAPMの点滴静注等による治療を受けて軽快、退院した。

 

小児難治性中耳炎における鼓膜チューブ留置術の目的は、

1.中耳腔からの排膿路確保。

2.十分な換気(酸素化)を可能にし、中耳粘膜の正常化を促す。

3.急性中耳炎再発時の耳痛や発熱の出現を軽減し、頻回の鼓膜切開を回避する。

4.点耳薬による局所への抗菌薬投与が可能。

5.貯留液残存が生じないため伝音難聴を起こさない。などである。

当院における鼓膜チューブ留置術は、2006年頃までは滲出性中耳炎に対する手術が主体で、年齢は3~6歳が最多であったが、2007年頃から難治性中耳炎に対するチューブ留置術が増加し、年齢も0から2歳が最多となった。

 

ま と め 

 

1.急性喉頭蓋炎は、咽頭には炎症所見が少なく、喉頭ファイバーや間接喉頭鏡検査で診断する。問診が重要で、早急に、2次、3次救急病院に紹介する必要がある。

2.咽頭異物の大半は、魚骨などの小型異物で、約半数は直視できる部位に介在し、医療器具の少ない救急診療所においても対処可能である。タイやキンキンなどの硬い魚骨を誤嚥した例は、早急に、2次、3次救急病院に紹介する。

3.急性中耳炎の大半は、抗菌薬と鎮痛剤を処方し、翌日耳鼻咽喉科受診、必要に応じての鼓膜切開で対処可能である。難治性中耳炎には、鼓膜チューブ留置術が効果的である。乳突洞炎併発例は、早急に、2次、3次救急病院への紹介が必要である。

 

文 献

 

1) 家根且有:急性喉頭蓋炎.JOHNS 22(3):425-428,2006.

2) 太田 康,市村恵一:扁桃周囲膿瘍.JOHNS 22(3):421-424,2006.

3) 齋藤久樹:処置用ファイバースコープと魚骨異物.JOHNS 21(2):100-102,2005.

4) 喜多村 健:小児急性中耳炎診療ガイドライン.JOHNS 26(5):679-684,2010.