処置用ファイバースコープを用いた咽頭異物摘出術

     ―26年間の統計と要点―

 

はじめに

 

1992年から2017年までの26年間に当院で摘出した咽頭異物401例中、処置用鼻咽喉ファイバースコープ(以下、処置用Fと略称)を用いて摘出した224例について詳述する。

来院経路は、直接来院が135例、他耳鼻咽喉科より紹介が84例、他科より紹介が5例であった。

   

1.年別分布

図1は年別分布を示したもので、最初の年は2例であったが、1995年頃から増加している。近年は減少傾向にあるが、2015年は15例、2017年も14例経験した。

2.年齢別・性別分布

図2は、年齢別・性別分布を示したもので、最少齢は311ヵ月女児、最高齢は93歳女性、平均年齢は47.1歳であった。

年代別では2060歳代の特に女性に多く、性別は、女性132例(58.9%)、男性92例(41.1%)であった。

3.摘出経路

摘出経路を経鼻、経口、経鼻・経口併用の3つに分類している。経鼻法は207例、経口法は14例、経鼻・経口併用法は3例に施行した。

4.異物の種類と魚骨の長径

図3は、異物の種類を示したもので、魚骨が217例と大半を占め、魚種は、ニシン23、カレイ22、アジ、サケ、サバ各17、ウナギ16などが多く、エビ甲殻触覚も7例あった。

その他異物7例の内訳は、イカサシミ、チキン小骨、ホウレン草、リンゴ片、枯れ枝、PTP、歯ブラシの毛が各1であった。

図4は、摘出・計測した魚骨109例の長径を示したもので、1115㎜が35例と最も多く、続いて610㎜の25例、1620㎜の18例が続き、3640mm2例あった。

5.介在部位

図5は、異物の介在部位を示したもので、舌扁桃・喉頭蓋谷183例、梨状陥凹・咽頭後壁25例、扁桃下極13例、上咽頭3例であった。

 6.介在期間

図6は、異物の介在期間を示したもので、異物誤嚥後24時間以内が155例と大半を占めていたが、7日目に受診、摘出した例もあった。

7.症 例

図7は、75歳男性、カレイの埋没魚骨異物例で、ごはんの丸のみをくりかえした後に受診し、粘膜下に深く刺入していたため、鰐口鉗子で粘膜を含めて魚骨を把持(右上)した後、経鼻的に摘出した。

異物を粘膜と一緒に把持した場合、通常は一旦異物を離してから把持し直していたが、本例は、それまで数回の把持に失敗した後でもあり、把持したまま少し待ってみたところ、44秒後に粘膜から魚骨が外れて(左下)摘出できた。

図8は、咳をした際に魚骨を認めたとして、他耳鼻咽喉科より当院に紹介された79歳女性のサバ魚骨例を示したもので、当初は異物を確認できず(左上)、咳をしてもらうと瞬間的に(右上)異物を確認できた。その後、発声してもらうと異物可視時間が長くなり、異物を把持できたので(左下)、経鼻的に摘出した。

図9は、85歳女性のタイ魚骨例で、経鼻的に把持した魚骨が診断時の想定より大きく、

後鼻孔付近でつかえたため(右上)、開口させ、鰐口鉗子で把持した魚骨を鼻用ピンセ

ットで把持し直し(左下)、経口的に摘出した。

 

考 察

 

 咽頭異物の大半は魚骨などの小型異物で、その多くは耳鼻咽喉科実地臨床医が摘出している。

摘出の難易度は介在部位によって大きく異なり、口蓋扁桃上中部など、直視できる部位に介在した異物の診断、摘出は容易である。

一方、口蓋扁桃下極、舌扁桃・喉頭蓋谷、梨状陥凹、上咽頭など、直視できない部位の異物が疑われた場合は、間接喉頭鏡、診断用鼻咽喉ファイバースコープ・電子内視鏡、X線検査などを駆使して異物の発見に努め、異物が確認された場合は、間接喉頭鉗子、喉頭直達鏡、処置用F等を用いて摘出する。

筆者が本法を開始した当時、直視できない部位に咽頭異物を発見した場合の摘出法として、専門書の多くには間接喉頭鏡と喉頭鉗子、または、直達鏡を用いて行うと記載されており、処置用Fによる咽頭異物摘出についての記載はほとんどなかった。

一方、処置用Fのカタログには、生検と並んで異物摘出がその用途として記載されており、処置用Fを用いた咽頭異物摘出は、間接喉頭鉗子や直達鏡による異物摘出の補助的な役割を担っていることが推測された。

そのため、実際の摘出にあたっては、直達鏡による異物摘出手技や、気管支ファイバースコピーの生検手技を応用し、筆者自身で工夫・改良を加えながら摘出していた。

喉頭鉗子、喉頭直達鏡、食道直達鏡を用いる場合の咽頭異物摘出経路は経口である。一方、処置用Fを用いる場合は大半が経鼻で、経鼻法は、咽頭反射を誘発しにくく、スコープが鼻腔で固定されるため操作が容易で、麻酔も鼻腔の表面麻酔のみで実施でき、小さな魚骨の摘出には第一選択と考えている。

術者は鉗子を異物に誘導して助手に鉗子先端部の開閉を指示し、異物把持を確認後、先端部をスコープ先端近くに移動してから、スコープ、鉗子、異物の3者を一体として抜去する。

長い魚骨を摘出する際には、後鼻孔付近で魚骨の長軸が縦方向になるように鉗子を回転させて鼻腔粘膜を保護する。

摘出は座位で行い、状況をモニター画面で患者に呈示しながら協力してもらうこともある。

本手技を開始した当初はすべて経鼻的摘出を試みていたが、小さな魚骨は把持操作中に介在部位から外れた異物が嚥下され、内視鏡画面から消えてしまった例を12例経験した。嚥下後に咽頭痛は消失し、その後、特に問題となった例は無い。

やや大きな魚骨は、後鼻孔付近でつかえて脱落することがあり、その後、吐き出してもらって確認した例を3例経験した。また、鼻腔の狭い例では処置用Fの挿入が難しいこともあり、1996年から経口的摘出を併用している。

経口法は、長い魚骨やPTP異物など、やや大きな異物の摘出に有用であるが、咽頭反射を誘発しやすく、スコープの固定も難しいため、摘出には経鼻法よりも長時間を要し、2006年から双方の長所を取り入れた、経鼻・経口併用法をも施行している。

経鼻・経口併用法は、処置用Fにて経鼻的に把持し、中咽頭まで引き上げた異物を経口的に鼻用ピンセット、ハイマン麦粒鉗子などを用いて摘出する方法で、異物を把持後に診断時の想定より大きい異物と判明した際には特に有用な手技と考えている。

 

おわりに

 

処置用ファイバースコープを用いた咽頭異物摘出術は、テレビビデオシステムにより異物介在部位を詳細に観察できるため、間接喉頭鏡と間接喉頭鉗子を用いる手技よりも適用範囲が広く、直達鏡を用いる手技に比して患者の肉体的負担は軽微である。

処置用Fの活用は、バックアップ体制の整っていない無床診療所における守備範囲を拡大するのに有用で、小型異物の大半は、経鼻法、経口法、経鼻・経口併用法を用いて摘出できる。

 

 

1)齋藤久樹:処置用ファイバースコープと魚骨異物. JOHNS 21(2):252-254,2005

2)片橋立秋:診療所における異物症例への対応. 口咽科19(2):161-166,2007

3)佐藤公則:電子内視鏡による咽頭・喉頭・頸部食道異物摘出術. 口咽科20(3):269-277,2008

4)齋藤久樹:耳鼻咽喉科の救急疾患. 弘前市医師会報345 :47-51,2012

5)小川浩司:咽頭異物摘出術. JOHNS 30(3):347-350,2014